October 02, 2004

ベネチア国際建築展日本館のテーマは「おたく」

イタリア・ベニスにアキバが出現

 9月12日より11月7日まで、イタリアのベニス島において、第9回ベネチア国際建築展(ベネチア・ビエンナーレ主催)が開催されている。世界各地の建築や都市計画の最新事例を模型やITを駆使したインスタレーションを用いて展示する世界で最も権威のあるこの建築展覧会は、世界各地より招待されたトップレベルの建築家によるモデル構成によるメイン展示と、世界42ヶ国の政府・機関が参加する国際展示によって構成されている。
 高度なCG表現が無ければ実現することが無かったであろう、建築の概念を超越したプランをテーマに展示する米国など、各国がテーマを設定してプレゼンテーションを競う国際展示の中で、建築の専門家のみならず特に注目を集めているのが、独立行政法人国際交流基金主催の日本館である。
 「おたく 人格=空間=都市」をテーマとした今回の日本館。コミッショナーとして抜擢されたのは、電気街のみならず「萌え」の街へと変貌を遂げる秋葉原を建築史として考察し、建築学や社会学のみならず様々な方面に影響を与えた「趣都の誕生 萌える都市アキハバラ」(幻冬舎)の著作で知られる建築史家の森川嘉一郎氏。今回の国際建築展の全体テーマである「変容」そのものに、テーマ設定は「趣味、人格が空間を変え、地理的な構造となり、都市をも趣味の構造による集合に変えてしまった」と森川氏が語る「秋葉原」を強く押し出した内容となっている。

多彩なアイテムで「趣都」を浮き彫りに

 「あくまで作為的では無いかたちで出現させたかった」という森川氏の言葉にあるように、秋葉原ラジオ会館にもあるレンタルショーケースに、まさに買い手を求めるように陳列された数多なジャンルのフィギュアなど有志によるコレクティングアイテムが並ぶ一方、「週刊わたしのおにいちゃん」(メディアワークス)などで知られる造型師の大嶋優木氏が新たに同展のために作り出した「新横浜ありな in 秋葉原」のフィギュアを展示、また、科学への憧憬が萌えへと変遷していったという源流からの綴りとして岡田斗司夫氏による食玩「王立科学博物館」シリーズ(タカラ+海洋堂)が導入部に展示されるなど、日本独自のおたく文化の進化と展開を異なる文化にある初心者でも実物を通じて感じることが出来る内容となっている。
 他にも、この20年間の秋葉原における電気街からアニメや同人系などの出展とそれによるランドスケープの変化を立体化した建築模型や、精神科医の斎藤環氏によって収集され現代芸術家の開発好明氏がインスタレーションを制作した、おたくの部屋の写真模型、コミケットのブース割模型と同人誌展示など、多彩なプレゼンテーションが展開している。
 あまりの展示の豊富さと、まさに初めての体験から、欧州を中心とする来場者は「こんな都市は本当にあるのか?架空の都市展示なのでは」(女性建築評論家)などとの戸惑いがあったり、にやにやしながら戦隊ものや美少女フィギュアのボックスをチェック、細かく撮影しながら「初めてこんなすごいものを見た、日本はいい国みたいだね、彼女(フィギュア美少女)は最高だよ」と答える建築デザイナーのグループなど、自身とは異質なものであるという感覚を持たれながらも、それ故か、総じて知的好奇心のもと好意的な反応のように見受けられた。

日本人建築家による新コンセプト美術館が最高賞を受賞

メイン展示における最高の建築提案に贈られる金獅子賞には、SANAA(妹島 和世氏・西沢立衛氏)が金沢21世紀美術館(金沢市)の設計に対して授与された。鑑賞・収蔵するための美術館としてだけでなく、都市生活にあって様々なかたちで市民が憩うことが出来る、質の高い新しい公共空間としての建物を実現しているに対して評価されたものである。

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岡田智博(クールステーツ)
このレポートは週刊アスキー509号に寄稿したものです