October 19, 2000

Ars Electronica 2000 参加報告(日本VR学会版)

岡田 智博(東京大学情報学環)

 今年で21年目を迎え、今や世界最大の地位を集めているアルス・エレクトロニカ・フェスティバル.

 メディア・テクノロジーにおいてはあまり耳にすることの無い、EUの小国、オーストリアの地方中核都市であるリンツで行なわれているこのフェスティバルが、世界中からの注目を集めるのは、電子芸術そのものが確立されていない70年代末より一貫して続けてきた継続力とそれに裏打ちされた名声によるものである.

 9月2日から7日まで開催されたこのフェスティバルのハイライトは、世界最大規模の電子芸術コンテストであるプリ・アルス・エレクトロニカ(アルス・エレクトロニカ賞)の表彰と入選作品の展覧会である.

 今回、特に目を見張ったのは、インタラクティブ・アート部門の入選作品のセレクション.「インタラクティブ・アートは美術館に押し込まれるものではない、社会とともにあるもの.だから、美術館に入らないものを言う観点でも選んでみたのだが、結局賞を与えたのはそのようなものたちなのだが、えこひいきしたわけで無い.インタラクティブ・アートという現実がそうなのだ」と審査委員の一人であるジェシム・サウター博士(ドイツ:ART+COM社長)と語るこの部門、確かにテクノロジーの特性が表現として大いに活かされる作品が様々なかたちで輩出していることを明らかにあるようなものに思われた.

 部門大賞に選ばれた「ベクトリアル・エレベーション」は、1000年紀終了記念プロジェクトとしてメキシコ・シティーを代表する広場を舞台に展開された巨大なサーチライト群による壮大な光のパフォーマンスであったが、その光のパターンはWEB上に設置されたコントロールのためのアプリケーションを用いて誰もがインターネットによって6秒間デザインできるというもの.どこに居てもインターネット上でのインタラクションとして、そして、現地ではスペクタクルとして楽しみ、またそれを共有化できるという、まさに、インターネットの持つ媒体としての特性をうまく活かせるアート・プロジェクトの登場を大いに感じさせてくれるものであった.
 また、同部門の副大賞に選ばれた「グラフィティー・ライター」は、ロボットと社会との関係に考えを投げかけてくれる作品だった.社会運動のためのロボットである「グラフィティー・ライター」は、時速15キロの高速で事前に登録したスローガンを路上にペインティングするもの.「人間はロボットが好きなので、取り締まられないどころか時には警官までこの行為に参加させてしまう」(制作者)というのだ.

 フェスティバルの舞台となっているリンツ市は、その成功を背景に1996年にメディア芸術センターである、アルス・エレクトロニカ・センターを第3セクターで開設している。このセンターは「未来ミュージアム」のコンセプトのもと、電子芸術作品の常設展示や、所内のクラスルームを用いた市内の学校に対するメディア・リテラシーに関する課外授業の提供や、付属研究所でのVRを中心とするメディア表現技術に対する芸術の応用による開発を行なっている。
 このセンターの地域社会に対する応用の例として、センター内に設置されたCAVEの活用がある。平素は、CAVEを用いた芸術作品の開発に用いられ、その成果物は来場者に対して公開されている。一方で、リンツおよび周辺地域で建造される公的施設の設計案や景観モデルを制作し、CAVEで仮想的に視覚化して公開、その体験を通じて意見を募るという公共的な使われ方をしているのである。
 この様に、新しい技術が社会や文化にどのような影響を与えるかを常に新鮮な切り口による企画で提示し世に問い続けるとともに、そこに集う人々のネットワークを地域作りに活かし続ける、世界を見渡してもユニークな存在であるアルス・エレクトロニカ。はやくも来年、何が登場するのか興味津々である。

 フェスティバルならびにセンターの内容についてはオフィシャルなホームページか
ら参照することが出来る。 http://www.aec.at/ 
 また、筆者による98年のフェスティバル以降(2000年まで)のレポートを以下のホームページに載せている。 http://coolstates.com/digitaleurope/ARS/

この文章は、「日本バーチャルリアリティ学会」  News Letter - 2000年 10月号 - ( Vol. 5 No. 10 ) における報告原稿として作成されました。