November 11, 2003

2003年の Prix Ars Electronica

 来年で四半世紀の歴史を標す、アニュアルでは世界で最も歴史を持つ電子芸術祭、アルスエレクトロニカによる、電子芸術の国際コンペティション、Prix Ars Electronica の授賞式と展覧会がさる9月にオーストリアのリンツで開催された。

 今年の傾向として、ITが社会の中で急速に浸透して行く中で、米ホイットニーミュージアムのキュレーターであるクリスチャン・ポールや仮想現実感による芸術表現の第一人者であるスコット・フィッシャーなどによって組織された、国際審査委員団自身のITそのものに対する理解や常日頃見ている作品の違いによって、評価が大いに分かれ、その評価に対して同祭に集まった若手作家を中心に異論が数多く表出したことがあげられる。

 インタラクティブアート部門の金賞に選ばれたのは”Can you see me now?”。GPSで補足された人物に対し、モバイル通信を使いプレーヤーが指示を出す「鬼ごっこ」プロジェクト。
 銀賞は、プログラム言語の配列を3Dキャラクターに起こし、それに対してビデオゲームとしてシューティングを行なう”nybble-engine-toolZ“、シュートすると自動的にホワイトハウスに戦争抗議の電子メールが発せられる。
 同じく銀賞を得たのは、明和電機の代表作である「ツクバシリーズ」だった。

 ”Can You See Me”への贈賞理由は、ネットワーク時代の人々の監視されている存在と仮想と現実との中での自己存在を向きなおす行為を表した点への評価。
 ところが、使われている技術に関しても、表現も、現在、実際にサービスされているモバイルサービスより劣り、かつ、同様の意識は既に多くの若者が感じ、このようなプロジェクトに類推する遊びが巷で自然発生的に行なわれていることに対する、評価者の想像力の欠落を、1970年前後生まれ以降の来場作家たちが口々に指摘していた。

 また、”nybble-engine-toolZ “はいわばメール爆弾を無意識に促す作品(抗議のメールの内容は撃つ側には選べないどころか読むことも出来ない)で、情報化社会における秩序に無条件に反するものとして違和感を覚えた。

 一方で、「ツクバシリーズ」の展示として連日開催された明和電機のミニコンサートは毎回満員の状態を示し、カメラを持参した人のほとんど全てが熱心に撮影をし、初めて体験するであろう家庭用電源で動く機械が奏でる音楽に身を揺らす。

 ITが生活や文化としての営みとして血肉となった世代にとって、ITの有無や有害性に解釈を加えようとすることは時代遅れであるという観衆や作家からの抵抗が、そこに今まで拠所があったキュレーターたちに対して、具体的な反応となって向けられたかのようであった。

 その新しい世代の感性が見られた作品として、入選作品の”Earth Core Laboratory and Elf-Scan”がある。「地下に妖精が居る」と「信じ」ている独ケルンメディア大院生の女流作家によるこの作品は、地下ボーリングの柱にセンサーを当て、そこからの「反応」に応じゴーグルで覗くと「妖精」が動画として見えるというもの。これら作品デバイスはレトロモダンな造型にまとめられており、あたかも本当に「妖精」をリサーチしているかのような気分にさせ、IT機器によって事象を把握する普通の営みの中でのファンタジーを与えてくれる。まさにそれは、「IT革命」後の今から生まれる「不思議ちゃん」のドラマツルギーだ。

アルス・エレクトロニカ2003 Ars Electronica http://www.aec.at/
9月6日から11日 OKセンター ほかオーストリア・リンツ市内各地で開催
Prix Ars Electronica http://www.aec.at/prix/

この原稿は「美術手帖」11月号用に書いたものです(掲載は別の原稿になりました)