November 12, 2003

地方に土着するメディアアーティストに幸あれ

 地方にある程度の力があった室町時代から江戸時代にかけて、京都や江戸に負けずとも劣らない、同時の芸能文化が地方各地で花開いた。その中には、「つくりもの」や「からくり」とよばれるハンドメイドによるハイテクガゼットも含まれ、これらの「作品」やそれを楽しみ、使うのは、多くの場合庶民であった。
 各地に残る、からくり人形を実装した山車はそのハイライトである。

 これと同じようなことが今、日本のメディアアートから起きようとしている。エスタブリッシュされたアートの世界では無いところから生まれるも、目の前にあれば注目せざるを得ない作家たちが各地に埋もれていたのである。
 それを顕在化させたのが、文化庁メディア芸術祭だ。

 極北の津軽、五所川原市の「広報ごしょがわら」平成15年7月15日号はこう見出しをあげた。

 地方からでも世界に通じる技術開発ができると証明
 瓦吹ナオユキさん

 文化庁メディア芸術祭…北米や欧州などを主に世界20カ国から応募、大賞には「千と千尋の神隠し」。創造性あふれるメディア芸術作品を顕彰。先端的なメディア芸術の鑑賞機会を提供し国内のメディア芸術振興を図る。

 今年二月末に開催された第六回文化庁メディア芸術祭のデジタルアート〔インタラクティブ部門〕で審査委員会推薦作品に選出された瓦吹直之さん(漆川)に、選出の喜びなどを伺いました。

〜選出おめでとうございます。作品の紹介、製作の動機、今のお気持ちをお聞かせください。
 3cm大の口腔内TVゲーム機を作りました。口の中に入れ舌で操作するゲーム機です。ボランティアで施設に行き、筋萎縮性側索硬化症という神経難病を患い舌しか動かせない方と出会い、何とか意思伝達の道具を開発したいと思ったのが始まりで、更に発展しゲーム機に至りました。文化庁から「審査委員会推薦作品」と身に余る評価をいただき、大変嬉しく思っています。特に多額の技術開発費を持つ大企業に交じり個人として選出されたことに。大企業でなくても、そして首都圏ではなく一地方からでも世界に通じる(世界最小のTVゲーム機としてギネスブックにも認定されている)技術開発ができることを証明できたことに意義を感じています。

〜コンピュータ開発に携わるきっかけは?
 小学生のときから独学でゲーム機を作ってしまいました。それからこの世界にどっぷりつかっています。

〜将来について等、今後の抱負についてお聞かせください。
 とりあえず今はハワイ大学との共同研究に全ての力を注ぎ、何かしらの形を残したいですね。昔からとにかく何でも「モノを創る」ことが大好きな性分なんです。これからも創造活動を通じてアーティスティックに自分を表現し、世界に羽ばたきたいと思っています。 

広報ごしょがわら 平成15年7月15日号 癸隠娃横

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 正直、この作品紹介ビデオを目にしたとき、とてつも無い衝撃を感じた。何しろ、世界最小のゲーム機、それも口に入れる。手を使わないでコンピュータをコントロールできる多目的使用も可。なのに、普通のホームビデオの映像なのだ。
 この広報で触れているように、まさに独学で、独りで作り上げたことが、容易に想像できる映像なのである。それも、東京ではない、吉幾三でおなじみのりんごとストーブ列車の里「五所川原」なのである。ハイテク産業とも無縁な五所川原、芸術といったら棟方志功の津軽地方。
 遂にIT革命は、メディアアートにも独学在野の天才を輩出するに到ったのである。
 もし、瓦吹氏が文化庁メディア芸術祭に応募しなかったら、この奇跡ともオルタナティブな才気を人々が知る由も無かったであろう。

 この年のメディア芸術祭は、もう一組の街の巨匠を顕在化した。
 将来があるであろうがんばる作家に与える奨励賞を取ったのは「エアブレーキ」、泉州岸和田、こっちは「だんじり」でおなじみの男気ある街だ。そこのCATV局でいつもは働く2人組のユニット。
 受賞作は「妖怪ヤミワラシ」だ。この「妖怪」、おんぶお化け型で、おんぶするとどしっと重く、動きが封じられる。そして、妖怪の手によって目隠しされてしまうのだ。
 動かないと視野が遮られ真っ暗になるが、走ると視野が広がる。普通、速度が増すと視野が狭くなるのだが(だから高速で運転する際は視野を広くしろと教えられる)、この妖怪にとりつかれると逆になってしまうのだ。妖怪恐るべし!
 平素は、作ったものをGEISAIに展示して、来た不思議ちゃんたちを歓ばすのが展示のフィールドなのだが、メディア芸術祭の本展示では、東京都写真美術館のロビーにヤミワラシは鎮座、一番の人気者となった。

 おしゃれなスタイルや表象遊びの中にアートを置いていると、アンテナから外れてしまうアートの存在が、脈々と今の日本にも存在したのだ。近松門左衛門や平賀源内、そしてからくり人形師のように、もっと彼らのような、在野のメディアアートが認められるべきであると私は思う。
 そして、土着としてではなく、それをキュレーティングして高めてゆくのも、おもしろいのでは無いのだろうか。

 みんな、ものづくりでアーティストをおもしろおかしくまじめに目指す。
 これこそがIT革命の実感であり、日本再生への起爆剤となるといって過言になるだろうか?
 少なくとも、うちはマジに思っている。

 またひとつ、アートデモのミッションが、土着のITものづくりアーティストの顕在化と、メジャーへのインキュベーションだ。日本にはもっと、もっと、おもしろいものづくりを自分の力でする若いのが居るはずだから。

 今度の文化庁メディア芸術祭もまた、楽しみだ。
 それにしても、このようなものが見つかる文化庁メディア芸術祭は、アートの天下一武闘会なのか、それなら合点が行くのだが・・・